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特権ID管理(PAM)とは、情報システムの導入や変更の際に利用される高権限のアカウントを適切に制御する管理のことであり、システムのセキュリティを強化するための仕組みです。セキュリティ管理者や人事担当者などの特権ユーザーによるITリソースへのアクセス状況を可視化し、昇格した特権ユーザーが必要なリソースに確実にアクセスできるようにすることで、適切な権限付与を確実にする一方、権限の不正利用を防ぎ、不正アクセスを遮断します。
さらに、特権ID管理(PAM)では最小権限の原則を適用することで、機密リソースにアクセスできるユーザーやアプリケーションなどを、割り当てられた業務を遂行するために必要な最小限のレベルに抑えることで、攻撃対象領域(アタック サーフェス)を縮小できるようになります。
なぜ特権ID管理(PAM)が必要なのか
企業のITの観点から見ると、特権とは、コンピューティング システムまたはアイデンティティ(ID)、アカウントに付与される、通常のアクセス権限を超える権限です。特権ID管理(PAM)は、認証済みユーザーに昇格されたアクセス権限を提供し、次のような制限されている機能を実行できるようにするために使用されます。
- 機密データまたはリソースへのアクセス
- ネットワークまたはシステムの構成
- デバイス ドライバーの読み込み
- ポートの開閉
- 特定のセキュリティ制限をオーバーライドまたはバイパス
- アカウントとクラウド インスタンスのプロビジョニングと構成
- システムのシャット ダウンまたは再起動
場合により、アプリケーション、クラウド管理プラットフォーム、データベース、ファイル システム、ハイパーバイザー、OSには、さまざまなユーザー アカウントとプロセスの特権が組み込まれています。また、特権ユーザーのロール(役割)や、部署や役職、時間帯、地理的な場所に基づき、特権を割り当てることもできます。
認証済みユーザーに重要な運用タスクを実行する特権を職務の一環として付与することは重要ですが、特権アクセス権限には本質的なリスクが伴います。
特権ID管理(PAM)により、内部関係者や特権アクセス権限のクレデンシャルを盗んだ攻撃者による誤用や悪用の可能性を、最小限に抑えることができるようになります。
特権アカウントの役割とは?基本から理解する
特権アカウントとは、サーバー、ファイアウォール、クラウド サービス/ストレージ、またはその他の管理者アカウントにアクセス権限を付与する最も操作権限の高いアカウントのことです。特権アカウントという言葉は、特権IDと同義で使われることが多いですが、特権アカウント自体は、特権IDとそれに紐づくパスワードを指す場合が一般的です。特権ID管理(PAM)は、これらのアカウントを管理し、アクセスを必要とするユーザーに必要な特権が確実に付与されるようにするために使用されます。
多くの場合、特権アカウントとは、組織のシステム、インフラ、ソフトウェアを管理するためにアクセス権限を用いるアカウントを指します。また、他のユーザーがデータやシステムにアクセスできるよう、そのようなユーザーに特権アカウントを付与することもできます。特権ID管理(PAM)を使用すると、特権アカウントを次のようなさまざまなエンティティに割り当てることができます。
- アプリケーション管理者
- データベース管理者
- ヘルプ デスク担当者
- IT管理者
- OS
- セキュリティ チーム
- サービス アカウント
- サード パーティの契約社員
特権ID管理(PAM)は、昇格されたアクセス権限を持つユーザーが実施できる操作を制御するために使用されます。ITの分野では、通常は次のような管理タスクが含まれます。
特権ID管理(PAM)の管理タスクの例
- 機密データと機密システムへのアクセス(医療記録、クレジット カード情報、社会保障番号、政府関係資料など)
- データのバックアップ
- ユーザー アカウントの作成と修正
- ソフトウェアのインストール
- セキュリティ設定とパッチの更新
また、特権ID管理(PAM)はオンプレミス環境とクラウド上のインフラ、サービス、システム アカウントを制御するためにも使用されます。たとえば、次のようなものがあります。
特権ID管理(PAM)の制御対象の例
- クラウド環境
- データベース
- エンドポイント
- OS
- SaaSアプリケーション
- サーバー
- サービス アカウント
特権ID管理(PAM)では、スーパーユーザー アカウントと呼ばれる特殊な特権アカウントも制御できます。このようなアカウントは、macOSやUnix/Linuxでは「Root」、Windowsシステムでは「Administrator」と呼ばれます。
専門のIT担当者はこれらのスーパーユーザー アカウントを使用し、コマンドの実行とシステムの変更を行います。これらのアカウントには、次のような業務を行うことができる広範な特権が付与されているため、特権ID管理(PAM)ではこれらのアカウントを監督してそのアクティビティを監視・記録します。
- ネットワーク全体にシステム上の変更を反映させる機能(ファイルやソフトウェアの作成・インストール、ファイルと設定の変更、ユーザーとデータの削除など)
- 他のユーザーのアクセス権許諾を付与/取り消す機能
- 完全な読み取り、書き込み、実行特権によるファイル、ディレクトリ、リソースへの無制限のアクセス権限
特権ID管理(PAM)は、ヒューマン エラー(重要なファイルの誤った削除や強力なコマンドの誤入力など)や悪意のある内部関係者のアクティビティによる影響を防止・軽減できるようにします。
7種類の特権アカウントと役割の一覧
次の例は組織に存在する特権アカウントの種類で、一般的に特権ID管理(PAM)を使用して管理されます。
特権アカウントの種類 | 概要 |
---|---|
アプリケーション管理者アカウント | 特定アプリや保存データに完全管理アクセスを持ち、構成変更や自動更新、DB・ネットワーク更新に利用される。 |
ドメイン管理者アカウント | システム内で最上位の権限を持ち、全ワークステーション・サーバーへのアクセスや構成・管理アカウント・グループ制御を行う。 |
ドメインサービスアカウント | 複数システム・アプリ間通信に利用され、DBアクセスやAPI呼び出しを行う。認証情報変更で接続断や損害が発生しやすく、漏洩リスクが高い。 |
緊急アカウント(ブレークグラス) | 重大インシデント時に非特権ユーザーが利用し、システム・サービス復旧のために昇格されたアクセス権を提供する。 |
ローカル管理者アカウント | 特定のサーバーやワークステーションに管理権限を持ち、IT部門がメンテナンスやローカルユーザー権限の管理に利用する。 |
サービスアカウント | アプリ/OS間の操作を支援するが、パスワード未変更や有効期限なしが多くリスク高。通常ログオン不可で、システムまたは特定ユーザーアカウントとして動作。 |
スーパーユーザーアカウント | 管理者に割り当てられ、全ファイル・ディレクトリ・リソースへ無制限アクセス可能。ソフトウェア管理やユーザー/データ操作を行う。 |
それぞれ解説します。
アプリケーション管理者アカウント
アプリケーション管理者アカウントには、特定のアプリケーションとそこに保存されているデータに対する完全な管理アクセス権限があります。これらのアカウントは、アプリケーションが自動更新に加え、データベースとネットワークの更新を実行するために必要なリソースへのアクセスを確実に行えるようにするために使用されます。また、アプリケーション管理者アカウントでは構成の変更も確実に行えるようにします。
ドメイン管理者アカウント
システム内で最高レベルのアクセス権限は、ドメイン管理者アカウントに付与されます。これらのアカウントはすべてのワークステーションとサーバーにアクセスでき、システム構成、管理アカウント、グループ メンバーシップを制御できます。
ドメイン サービス アカウント
強力ながらも非常に複雑なアカウントです。複数のシステムとアプリケーションを接続して通信し、リソースにアクセス権限(データベースへのアクセス、APIの呼び出し、レポートの実行など)を提供するために使用されるため、ドメイン サービス アカウントのクレデンシャルに変更を加えると接続が解除され、大きな損害が発生する可能性があります。これらのクレデンシャルはほとんど変更されないため、漏洩の危険にさらされる可能性が高くなります。
緊急アカウント
ブレーク グラス アカウントと呼ばれることもある緊急アカウントには特権アクセスがあり、重大なインシデントの発生を契機としてシステムとサービスを復旧する目的で昇格されたアクセス権限が必要な際に、特権のないユーザーが使用することを意図されています。
ローカル管理者アカウント
ローカル管理者アカウントには、特定のサーバーまたはワークステーションに対する管理権限があります。この種類の特権アクセス アカウントは、通常、IT部門がメンテナンス タスクを実施できるようにするために作成されます。
ローカル管理者アカウントは強力で、ローカル ユーザーの作成、ユーザー権限とアクセス制御権限の割り当て、またユーザーの権限とアクセス権許諾の変更によるローカル リソースの制御に使用できます。
サービス アカウント
サービス アカウントは、アプリケーション/OS間のセキュアな操作を促進するために使用されます。サービス アカウントで生じるセキュリティ上の問題は、アプリケーションまたはプログラムを実行するためにOSで使用できるサービス アカウントであるが、通常、そのアクセスはシステム アカウント(パスワードのない高度な特権を持つアカウント)または特定のユーザー アカウント(通常は手動またはソフトウェアのインストール時に作成される)のいずれかであることです。通常、サービス アカウントではシステムへのログオンは許可されていませんが、パスワードが一度も変更されないことが多く、アカウントの有効期限もありません。
スーパーユーザー アカウント
スーパーユーザー アカウントは管理者に割り当てられます。この種類のアカウントでは、ユーザーに業務を行ううえで必要なファイル、ディレクトリ、リソースへの無制限のアクセスを提供します。特権ID管理(PAM)では管理者のアクティビティを監督します(ソフトウェアのインストール、構成と設定の変更、ユーザーとデータの追加/削除など)。
他の種類の特権アカウント
以上は、組織が特権アカウントの侵害・悪用リスクを軽減する目的で、優先順位を上げて保護する必要がある特権アカウントの一部に過ぎません。その他の種類の特権アカウントには次が含まれます。
- セキュリティ ソリューションへのアクセスに使用されるアカウント
- ファイアウォール アカウント
- ハードウェア アカウント(BIOSやvProなど)
- ネットワーク機器
- Rootアカウント
- Wi-Fiアカウント
攻撃者の標的になる特権パスワードの実態とは?
特権パスワードは、限られた数のユーザーに次の機能を付与する特権アカウントです。
- 重要なシステム、アカウント、アプリケーションへのアクセス(例:顧客関係管理プラットフォーム、OS、ディレクトリ サービス、ソーシャル メディア アカウント、IoTデバイスなど)
- 制限された機能の実施(例:アカウント作成やアカウントへの特権アクセス権限の割り当てなど)
- 機密情報の閲覧、編集、またはダウンロード(例:顧客情報、財務データ、知的財産など)
特権ID管理(PAM)は、侵害時に壊滅的なラテラル ムーブメントに利用される可能性のある、危険な特権パスワードを保護できるようにします。
ユーザー、アプリケーション、サービス アカウントに関連付けられている特権パスワードは特に危険です。特権ID管理(PAM)では、この3種類に加えてユーザー アカウントが攻撃ベクトルにならないよう、計4種類を確実に監視・警告します。
特権ID管理(PAM)が重要な理由
特権アクセス アカウントに関連するリスクを軽減するうえで、特権ID管理(PAM)は重要な役割を担います。ここでは、特権ID管理(PAM)によって特権アカウントの悪用をどのように防止できるのか、また、それによって組織にもたらされるメリットについて解説します。
特権ID管理(PAM)が組織にもたらす5つのメリット
- セキュリティ チームが権限の悪用による悪意のあるアクティビティを特定できるようにします。
- 従業員が業務を行うために必要なレベルのアクセス権限のみを持つようにします。
- 権限の悪用に関連する悪意のあるアクティビティを特定します。
- システム間のアクセス・通信用に、セキュアなアクセス制御をシステムに提供します。
- 異常な特権アクセス アクティビティを発生した時点で検出します。
特権ID管理(PAM)は次の理由でも重要です。
攻撃対象領域(アタック サーフェス)の縮小
特権ID管理(PAM)は、ユーザーやシステム、アプリケーションに対する特権を制限することで、内部、外部の脅威からの保護を実現し、悪用のリスクを低減します。
可視性の向上
特権ID管理(PAM)により、セキュリティ チームはあらゆるアプリケーション、デバイス、ネットワーク、サーバーへのユーザーのアクセス状況をリアルタイムで把握できます。これにより、未認証のエリアへのアクセス試行を迅速に特定できるようになります。また特権ID管理(PAM)を使用すると、ユーザーが通常の行動をとらない際のアラートをセットアップし、漏洩した可能性があるクレデンシャルにフラグを立てることもできます。
生産性の向上
特権ID管理(PAM)では、パスワード作成・保管などの手動タスクを自動化できます。特権ID管理(PAM)ではヒューマン エラーが削減されるため、チームが問題解決に費やす時間が節約され、ユーザーが複数の場所とデバイスからログインする際に発生するアクセスの問題を解消できるようになります。
統合アクセス
特権ID管理(PAM)では、企業システムへのアクセス(アプリケーション、データベース、デバイス、サーバー、ワークステーションなど)を管理するための単一のダッシュボードが提供されます。またこのダッシュボードを使用すると、複数のソースからのアクセス権限のデータを集約したレポートを生成できます。
サイバー攻撃の影響を最小化
情報漏洩の発生やマルウェアが侵入する足掛かりが生じた場合、特権ID管理(PAM)は被害の拡散を抑えることで影響を最小化できるようにします。
退職した従業員による攻撃から保護
特権ID管理(PAM)では退職した従業員のアクセス権限を簡単に自動削除できるようになるため、そのような従業員にシステムへのアクセス権限が残ることで発生するセキュリティ ギャップを排除できるようになります。
サイバー保険の要件を満たす
ランサムウェア攻撃の範囲とコストに対応すべく、多くのサイバー保険契約では特権ID管理(PAM)の使用が義務付けられています。これは、特権ID管理(PAM)の制御がリスクの削減とサイバー脅威の無効化に効果的であることが実証されているためです。
セキュリティの最も脆弱なリンク「人間」を軽減
セキュリティ対策(特にアクセス関連)において人間が最も脆弱なリンクであることは、専門家が同意するところです。特権ID管理(PAM)により、特権ユーザーが自身のレベルのアクセス権限を悪用・誤用しないようにできます。
特権ID管理(PAM)では、特権ユーザーへ業務に必要な最小限のアクセス権限のみを確実に付与することで、潜在的なリスクを軽減します。また、悪意のあるアクティビティを特定し、権限の悪用と関連付けることができるようにします。
コンプライアンス プログラムのサポート
特権ID管理(PAM)によってコンプライアンスを達成・検証できるようになります。さまざまな規制のコンプライアンス要件である最小権限の原則を、容易に導入・適用できるようにします(連邦情報セキュリティ管理法(FISMA法)、1996年医療保険の相互運用性と説明責任に関する法律(HIPAA法)、ペイメント カード インダストリー データ セキュリティ基準(PCI DSS)、サーベンス・オクスリー法(SOX法)など)。
さらに、特権ID管理(PAM)では重要なITインフラと機密情報に関連するアクティビティをすべて記録してログに残すため、コンプライアンス監査に必要なデータが提供されます。
組織を守る特権ID管理(PAM)の効果
特権ID管理(PAM)は、特権アカウントと特権パスワードを悪用する脅威を無効化するための効果的なツールです。最も一般的な脅威はネットワークを介したラテラル ムーブメントを用いるもので、特権の昇格に使用できる休眠・孤立アカウントを見つけることです。
脅威ベクトルを利用して特権アカウントと特権パスワードにアクセスするエージェントには、以下が含まれます(悪意を持って行動しているわけではなく、単に犯したミスで特権アカウントの昇格につながる場合もあります)。
- 偶発的な内部関係者(ユーザー エラー)
- ハッカー
- 悪意のある内部関係者
- パートナー
特権ID管理(PAM)では、特権アクセスの割り当てで生じる次のような脆弱性に対する効果的な防御が提供されます。
- アプリケーション、システム、ネットワーク デバイス、IoTデバイスに使用される、ハードコードされたクレデンシャルと埋め込み型のクレデンシャル
- 特権アカウントの注意不足
- 特権のオーバー プロビジョニング
- 不適切なパスワード管理方法
- リモート アクセス
- 管理アカウントの共有
- サード パーティ ベンダーによるアクセス
特権ID管理(PAM)のベスト プラクティス
次は、最もよく引用される特権ID管理(PAM)のベスト プラクティスの概要です。
- 永続的な特権アクセスの回避
- すべての特権アカウントと特権クレデンシャルの完全なインベントリを作成
- 特権ユーザー行動アクティビティ(PUBA)のベースラインを決定し、逸脱を監視
- 特権アカウントがどこで、どのように、誰に使用されているかを文書化
- すべてのエンド ユーザー、エンドポイント、アカウント、アプリケーション、サービス、システム(すべてのオンプレミス、クラウド、ハイブリッド展開を含む)に対して最小権限を適用し、あらゆるデフォルト特権と常駐特権を排除
- 包括的な特権管理ポリシーを確立して適用
- 次のような強力なパスワード セキュリティ プロトコルの導入
- すべての特権アクティビティを監視・監査
- 必要なアクセス権限を提供
- 特権・職務分掌の義務化
- デフォルトの管理者権限を削除
- システムとネットワークの分離
- 特権ID管理(PAM)の自動化を活用
- アクティビティベースのアクセス制御を使用
- コンテキストベースの動的なアクセスを使用
- 特権ID管理(PAM)を使用して関連するセキュリティ ポリシーを導入・維持
- すべてのクレデンシャル(アプリケーションや特権アカウントのパスワード、SSHキーなど)のセキュリティと管理を一元化
- 強力なパスワードの使用を義務化
- 特権パスワードを定期的に更新
- パスワード共有の禁止
まとめ
特権アクセスの使用には、本質的なリスクが伴います。特権ID管理(PAM)によって組織は、セキュリティを損なわず攻撃対象領域を拡大せず、昇格されたアクセス権限をユーザーに付与できるようになります。そのためセキュリティが強化され、セキュリティ チームが生産性の向上とオペレーションの簡素化を行えるようになります。